藤沢数希 著 『「反原発」の不都合な真実』

私はどちらかというと脱原発を支持しています。留学の間に何度か帰国した時には息苦しい感じがしたし、食べ物に気を使うようになってしまったのも、友人に日本のおいしい食べ物を紹介できなくなってしまったのも悲しい。あと、他の国の人にもこんな思いはしてほしくない。そんな思いで下のエントリーを以前書きました。

原発に対する意見をうまく持てずにいました - aki note

ただ、原発に反対するデモに参加するほど強くも反対できなかったんですよね。というのも、東日本大震災の後の原発事故の原因や全容はきちんと把握していなかったし、原発の仕組みは理解していなかったし、脱原発によるメリット・デメリットをきちんと数字ベースでものが言えなかったから。どちらかというと直感から感情的に、人が制御できなさそうなものは気持ち悪い、ない方がいいと思っていたんですね。その感覚もまずくはないと思うけれど。でも数字を把握して、冷静に理解するのも大事だと私の中の理系の私が言うのです。

そんな話を大学時代の友人としていて、金融日記の著者、藤沢数希さんの『「反原発」の不都合な真実』を教えてもらいました。

「反原発」の不都合な真実 (新潮新書)

「反原発」の不都合な真実 (新潮新書)

読んでよかったと思います。原発を止めても危険はゼロにはならないこと、原発を止めるとすると4兆円の追加費用が必要で、原発で供給していた電力を火力発電所で発電しようとすると大気汚染やCO2の増加につながってしまい環境に多大な影響があること、さらに原発よりも多くの人命が犠牲になること。再生可能エネルギーは効率が悪いこと、そしてそれは豊かな国が実験的に生産してみるエネルギーに過ぎなくて、途上国、これから多大な人口をかけることになるであろう全世界規模ではまったく現実的ではない。幸運にも先進国に生まれてしまった私は頭がお花畑でこんなこと考えてもみませんでした。誰も途上国の人が先進国の人と同じ生活水準を求めることを止めることなんてできないんですね。そんな権利もない。ヨーロッパにいた時に何度となくこの話になったのを思い出します。

そんな中で、脱原発の流れで隠れてしまっている「不都合な真実」を明らかにして、原発は現実的な選択肢でもある、冷静にもう一度考えてみてはどうだろう、これこれこういうデータがあるよ、こういう仕組みで動いているんだよ、というのが本書の言わんとするところだと思います。

本書を読んだ後に、私が本書から学んだ数字を元にドイツ出身の友人と話をしました。彼は脱原発による弊害についても、再生可能エネルギーの課題についてもよく知っていました。ただ、「人口の増大に比べたら微力かもしれないけれど、自分たちがエネルギーの使用量を減らすこともできるよね。僕はあと30%くらいは貧しく感じることなく減らせると思う。」とのこと。私もそう思います。ドイツ人のひとりあたりの家庭での電力使用量は日本人の70% (余談1へ)。ここから30%減らすということだから、日本人にすると今の半分。で、そういうライフスタイルが先進的で、かつ気持ちいいことというを世界に示していくのも多分私たちの役目だと思う。

そんなこんなで、脱原発のメリットとデメリットを明らかにして、これからの世界とエネルギーについて考える機会、自分の意見を形作る基礎になるデータを示してくれた本書は一読の価値がある良書だと思います。感情的になっているかな、直感で物を言っているなあ … と感じる人には特におすすめです。

■ 余談1: 日本とドイツの消費電力

ドイツは人口8175万人で、総消費電力は4956億kWh、28.1%が家庭用。 日本は人口1億2779万人で、総消費電力は9644億kWh、30.6%が家庭用。ひとりあたりの年間使用電力量に直してみると、

  • ドイツ 495600000000 * 0.281 / 81750000 = 1703.53 kWh
  • 日本 964400000000 * 0.306 / 127790000 = 2309.31 kWh

さすがに半分とまではいかないけれど、日本の7割強という感じ。

■ 余談2: 本書を読みつつ、ずっと頭の片隅にあった本