『全貌ウィキリークス』――すごいよ、壮大な実験の記録

ものすごく楽しみにしていた独シュピーゲル誌記者マルセル・ローゼンバッハ氏、ホルガー・シュタルク氏によるWikiLeaks本。連休を通して、もりもりのめり込んで読み切ってしまいました。

全貌ウィキリークス

全貌ウィキリークス

本文より
「アサンジは大股の軽やかな足どりで駆けこんでくると、すぐにバックパックから300ユーロの黒いEeePCを取りだした。天板にはさまざまなネット団体のステッカーが貼ってあるが、どれも擦りきれている。ほどなくこの小型ノートパソコンは稼動状態となり、アサンジは小さなキーボードを叩きだす。そんなふうにしてそれからの数週間、私たちシュピーゲル誌とガーディアン紙の仲間は、間近で眺めることになったのだった――人なつこくて協力的なアサンジという人間を。高度に集中した、ほとんど偏執的なまでのその仕事ぶりを。(……)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4152091975

機密情報の収集と公開を進めるWikiLeaks、創設者ジュリアン・アサンジ氏、周辺の人たち、この組織の思想的な背景について、WikiLeaks万歳ではなくて、硬派なメディアとして、批判すべきところはきっちり批判しつつ、(多分)ポジティブな方向で彼らを追っています。かなりきわどいキャラクターだろうけれど、何というか憎めないジュリアン・アサンジ氏の奇行や天才ぶりも必読。何度笑ったことか(^^;ここまで詳細に記述できたのは、ウィキリークスと情報公開前の共同作業を進めてきたメディアのひとつ、独シュピーゲル誌の記者だったからでしょう。

何で私はこんなにWikiLeaksのことが気になるのだろう?と随分考えつつ読んでいたのですが、世界に対して「情報はどうあるとよいのか」という問題を提出して、実験をしているところが興味深い、善悪の判断さえつかないし、何が正義なのかもわからなくなる、そういう部分に興味を持っているのだと思います。公開文書に名前があった人にも配慮が必要だし、米軍の機密情報をリークしたブラッドリー・マニング兵(こんな人だったのか…という記述有)や、自分自身も実験台になっちゃってプライベートまで報道されるアサンジ氏に対する配慮も必要だし、ただただおもしろいでは済まないのだろうけれど。それでも何というか、この組織が投げかけた疑問がどう議論されるのか、情報って何なのか、その扱いはどうなるのか、新しい世界では何がどうなっているのか知りたいです。
# 手牌が見えているかもしれない麻雀ってどうなるんだろう?という。鷲頭麻雀は、見えている手配がわかっているのでちょっと違う?どれが見えているかもわからないから、全部見えているとして行動するべき?この辺って合理的な行動のモデルが出てきそうですね。もうすでに出てるかな?

シュピーゲル誌、英ガーディアン誌といったメディアがウィキリークスと共同作業を進めていくシーンも描かれていて、私はいたく感動したのですが、これもきっと新しい世界への一歩だと思います。

信じられないくらいに広くて狭い世界をふらふらと移動して、当座の本営を設けて、疑問を投げかけてくるWikiLeaksやアサンジ氏は、多分これまでの考え方では理解できなくて、抵抗する向きも多いのだと思う。人は変化が嫌いだから。

で、本書は、今後WikiLeaksを見ていくにあたって、必要な背景事情を丁寧に解説してくれるよきガイドなんじゃないかなと思います。

ああ、もう、著者はもちろん、ものすごいスピードで日本語を出版した早川書房さん、こんな本を母語で読める機会を作ってくれるなんて。本書の編集者の方のつぶやきを。# サンデル教授の『これからの「正義」の話をしよう』、マット・リドレー著『繁栄』の編集もされたんですね、、、すごい。

@tomikawan ドイツでの原書刊行からわずか2週間後に翻訳出版とあい成った『全貌ウィキリークス』。今回の本作りは、ドイツの出版社から随時届く修正ゲラを、そのつど反映させながらブラッシュアップしていく、という同時並行作業でした。
富川直泰 on Twitter: "ドイツでの原書刊行からわずか2週間後に翻訳出版とあい成った『全貌ウィキリークス』。今回の本作りは、ドイツの出版社から随時届く修正ゲラを、そのつど反映させながらブラッシュアップしていく、という同時並行作業でした。"

考えるところの多い、どんよりする良書です(数々の奇行と笑いがバランスをうまく保っています)。最後の一段落、以下の著者の疑問に対するアサンジ氏の答えがものすごくかっこいい!!!!!!!!!!!!ぜひ手に取ってみてください(^^)

ジュリアン・アサンジは、もっと快適な人生を選ぶこともできただろう。彼と同年代の、彼ほどは才能のない人たちが、インターネットでビジネスを立ち上げ、成功し、裕福になっている。彼らの家や車、プールを見れば、アサンジも起業しようかなどと考えるだろうか。彼はなぜ、このような波乱に富んだ人生を送ろうと決めたのだろう。そして、他者に対して、いや、誰よりも自分自身に対して、このようにストイックな首尾一貫した姿勢をもつのだろうか。

(このあとがすごい!)

■ 追記1: 本の中のシーンがもりもり出てくるドキュメンタリーがありました


YouTube

英ガーディアン誌のプロジェクトルームでの文書公開前作業のシーンや、ロンドンのジャーナリストクラブ「フロントラインクラブ」(本に出てくるよ!)に作られたWikiLeaksならではのquick setup and quick pull down officeな暫定オフィスのシーンも。キャリーケースにAppleのモニターを突っ込むアサンジ氏のスーパーモバイルライフ(portable me だと言っている)もすごい…。穴が開いた靴下がなぜかアップになって映っていたり。本と合わせて必見の動画です。

アサンジ氏のEeePCを見たくて、探していて、↑の動画を見つけたのですが、EeePC見つけました。真ん中のステッカーがWikiLeaksのものかなという以外わからない…。それにしても、MacBookじゃないんだ、ほー!です。

The Whistleblower 1 of 2 - Julian Assange report on SBS's Dateline by Mark Davis - YouTube

■ 追記2: 英ガーディアン誌の記者の本も出る!

2月15日には、WikiLeaks、独シュピーゲル誌とともに作業をしてきた英ガーディアン誌の記者によるWikiLeaks本も出ます。こちらもネットでレビューが出始めていて、とても楽しみです。

ウィキリークス WikiLeaks  アサンジの戦争

ウィキリークス WikiLeaks アサンジの戦争

  • 作者: 『ガーディアン』特命取材チーム,デヴィッド・リー,ルーク・ハーディング,月沢李歌子,島田楓子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/02/15
  • メディア: 単行本
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