新井紀子 著 『コンピュータが仕事を奪う』 ― コンピュータと人の関係の過去と未来を描いた良書

先週、はてなブックマークニュースの新刊ピックアップで、『コンピュータが仕事を奪う』を紹介しました(「イノアキ」さんというペンネームで毎週書いています)。

旅と読書の思考法、数学に学ぶ問題解決、コンピュータとの仕事争奪戦――はてなブックマーク 新刊ピックアップ - はてなニュース

読み終えたので読書感想文を。

コンピュータが仕事を奪う

コンピュータが仕事を奪う

この本では、紀元前数千年前の数学の起源から現代まで、そして、これからのコンピュータと人の関係はどうなるのかが網羅的に語られています。といっても、かたいかたい学術書というわけではなくて、日々使っているサービスの名前も出てきて身近なものとして読めるし、ところどころにちりばめてあるエピソードは小ネタとしても、ほうほうと楽しめるものばかりです。そこら辺は、著者の新井紀子さんの巧みさでしょう。聖書の人口調査と未来予測の話が出てきちゃうなんて、著者あっぱれです。

「コンピュータが仕事を奪う」というと、随分衝撃的で物騒なタイトルに聞こえますが、もちろんすべての仕事が奪われてしまうわけではありませぬ。本書には、どのような仕事が奪われてしまうか、人は何を学んだらよいのかについても書いてあるのでご安心を。いわゆるビジネス書のように具体的な方法が10個箇条書きにしてあるわけではないけれど(^^; (& 最後の「私たちは何を学ぶべきか」という章は、若干鼻息荒めの教育論になっちゃっているのはちょっと残念。)

で、コンピュータに仕事を奪われかねない21世紀、大事なのは、「帰納」と「演繹」というふたつの考え方があることを知って、人とコンピュータそれぞれが得意なこと、苦手なことを知ること。そして、「第二言語として数学が話せる能力」が必要だと気付くこと。

敵を知れば百戦危うからず?

個人的には、コンピュータは「敵」「仕事を奪うもの」というよりは、私にいろいろなことを気付かせてくれて、私が苦手な計算をもりもりしてくれて、どちらかというと友達みたいなもので、仲良くするために彼らや彼らの世界をよく知りたい。もうちょっとうまく話をできる考え方が手に入るといいな、そんな感じで本書を手に取りました。

最後に本書にある内容をもっと詳しく知ることのできる書籍を数冊紹介して終わります。21世紀的な大量のデータをコンピュータで処理して・・・という話は、イアン・エアーズ著『その数学が戦略を決める』、本書の中にも出てくる「第二言語として数学が話せる能力」については新井紀子 著 『数学は言葉』、超絶わかりやすくて3日で読める統計の入門書は小島寛之 著 『完全独習 統計学入門』がおすすめです。21世紀にコンピュータと仲良くするのに必読の3冊です(^^)

その数学が戦略を決める (文春文庫)

その数学が戦略を決める (文春文庫)

数学は言葉―math stories

数学は言葉―math stories

完全独習 統計学入門

完全独習 統計学入門

◆ 余談: 新井紀子さんの書籍を手に取ったきっかけ

母が小島寛之さんの朝日新聞のコラムが好きで、もしかするとSEGの先生?という話になり、『完全独習 統計学入門』を手にとって、良書すぎて、2009年末、ナシム・ニコラス・タレブ 著 『ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質』(これも良書!)を読んでいたこともあり、小島さんのベイズ理論に関する著書を中心に片っ端から読みあさっていました(^^;で、小島さんのブログで、新井紀子さんの『数学は言葉』が紹介されているのを読んで、新井さんの著書も好きになったのでした。

hiroyukikojima の日記 - 数学は言葉

本との出会いって不思議ですね。本大好き。